甲殻綱十脚目・長尾亜目。えび類の総称で、淡水産もあるが本来は海の産物。漢字で海老と書くのは、長いひげや腰を曲げて進む様子を海の老人になぞらえたことによる。日本人は特にえびを好む民族で、古来より慶事には欠かせない食材とされている。日常の食用としても、新鮮なものは刺身や生け作りにし、てんぷら、塩焼き、グラタン、チリソース炒めほか、和洋中からエスニックまで、さまざまな料理に広く使われる、干しえび、つくだ煮、えびせんべいといった加工品類も豊富。多くのえび類は5〜7月に産卵し、成長するにつれて脱皮する。食性は肉食で、夜行性。夜になると、餌を求めて活発に動く。えびの種類は約3000種もあり、大別すると泳ぐタイプ(遊泳型=車えび、大正えび、ブラックタイガー、芝えび、さくらえび、甘えび、ぼたんえびなど)と歩くタイプ(歩行型=伊勢えび、あかざえび、ざりがに、ロブスターなど)になる。遊泳型は体の左右がやや扁平で遊泳脚を持ち、泳ぐのに適した体形をしている。歩行型は円筒形で非常にかたい頭部とよく発達した腹部、丈夫な歩行脚、太くて長い第2触角(ひげ)を持ち、浅海の岩礁に生息して昼間は岩穴の中や岩棚の下に集まり、夜になると餌になる小さい魚貝を求めて歩き回る。天然もの以外に養殖が盛んに行われているうえ、世界各地で多くの種類のえびが養殖され、国内産の約10倍もの量を輸入しているので、ほとんどのえびが一年中市場に出回っている。そのうちの9割は車えび。旬は一般に夏か秋だが、車えびは11〜2月。
●車えび(車海老) クルマエビ科。中型の食用えびの中の最高級品。殻は薄くて光沢があり、通常、青灰色か淡い褐色の地に青褐色または茶褐色の幅広の縞模様がある。体を曲げると縞模様が車輪のように見えるところから、この名がついたといわれる。体色は加熱すると赤く変色する。味は甘みとうまみがあり、生けを刺身やすしだねにしたり、てんぷら、焼き物、炒め物、フライなど、さまざまな料理に使われる。種類は約120種で、内海や浅海の水深100m前後の砂泥底にすみ、北海道南部、特に東京湾以南から西太平洋、インド洋に広く分布。近年はスエズ運河を経て地中海東部にまで生息している。5月下旬~9月上旬に泳ぎながら産卵し、何回も脱皮を繰り返して湾外の沖合で越冬し、1年で成熟する。1960年代から大量に養殖する技術が確立し、国内では瀬戸内海や九州など、海外では台湾や東南アジアで盛んに養殖が行われている。体長は一般に15〜20cmだが、なかには25cmに達するものもある。特に体長が約10〜12cmを“まき”、約6〜9cmを“さいまき”と呼び、“さいまき”は高級てんぷらに使われることが多い。生けでないと値打ちがないとされるので、ダンボール箱におがくずと一緒に詰め、夏場はビニール袋に氷を入れて出荷される。
●大正えび(大正海老) クルマエビ科。高麗(こうらい)えびのことで、胴の節が少なく、透明な灰白色の地に淡青色の斑点が散り、尾は朱褐色を帯びているのが特徴。この名は、大正時代に業者の大正組が大正海老という名で販売したことによる。肉質はやわらかく、味は雄のほうがよい。鮮度が落ちると全体に白っぽくなり、頭や先端が黒くなる。4〜7月に中国の渤海(ぼっかい)で産卵し、成長とともに回遊して南下。黄海の中央部や済州島西方のやや深い海で越冬し、1年で成熟する。体長は雄が15cm、雌が20cmほどで、なかには27cmに達するものもある。近ごろはインドネシアやメキシコ方面からの輸入冷凍もの、氷詰めが多い。
●ブラックタイガー クルマエビ科。和名は牛えび。形は車えびに似ているが大型で、体長が33cmにも達する。色は紫黒色または藍黒色で、成長するにつれて黄色い横縞が現れる。この色は加熱するとあざやかな赤色になる。日本では房総半島以南に少しいるだけだが、東南アジアやインド洋周辺に多く生息。養殖も台湾を中心に東南アジアなどで盛んに行われ、そのほとんどが日本に輸入されている。スーパーで販売され、大衆すし店のすしだねとして使われることが多い。
●芝えび(芝海老) クルマエビ科。不規則な浅いへこみがある殻にかたい毛が生え、灰白色の体に青い斑点が多数散っている小えび。体長約10cmで雌のほうがやや大きい。昔、東京湾の芝浦周辺でたくさん獲れていたので、この名がつき、つくだ煮の材料にもされた。東京湾、伊勢湾、瀬戸内海などの内湾の砂底に生息し、6月下旬〜9月に産卵、沖合で越冬するのだが、現在は東京湾産が激減。韓国などからの輸入品が多い。
●さくらえび(桜蝦) サクラエビ科。体長は4~5cm前後で、小えびの代表格。透明な淡いピンク色の体に紅赤色の斑点が多数散り、乾燥させると全身があざやかな桜色に変わる。水深約100〜300mの海域に分布し、夜になると海面近くまで浮上して餌を食べ、明け方には深みに戻る。寿命は15カ月。東京湾や相模湾にも分布するが、駿河湾の名産。台湾東部の沖合でも漁獲されている。カルシウムやリンなどのミネラルがほかのえびとは比較にならないほど多く、栄養成分が優れている食材で、干しても生のままでも食べられ、釜揚げ、てんぷらなどにする。素干し、煮干し、釜揚げの形で流通しているものが多い。
●甘えび(甘海老) タラバエビ科。体長は約10〜13cmの小えびで、額角が頭胸甲の長さの1.5倍もあり、全身があざやかな紅赤色。刺身にしたときに甘みがあるためにこの名で知られているが、北国赤蝦(ほっこくあかえび)の別名。赤えび、南蛮えび、とんがらしと呼ぶ地方もある。富山以北の日本海沿岸からオホーツク海、ベーリング海、カナダ西岸に分布し、3月中旬~5月中旬に800〜4200粒の青い卵を産出し、雄から雌への性転換をする。寿命は4年。日本海、北海道沿岸での漁獲量は多く、市場に流通しているのはすべて雌で、現在はベーリング海やグリーンランド周辺の輸入冷凍ものも多い。
●ぼたんえび(牡丹蝦) タラバエビ科。甘えびのように甘みのあるえびで、体長は約20cmあるが、小えびの仲間。頭胸甲の背隆起のとげと額角中央部付近は赤く、殻全体が濃い橙赤色なので、この名がついたと推測される。腹部に赤褐色の不規則な斑点があるのが特徴。色や姿形が近似しているため、北海道でぼたんえびと呼ぶことが多い富山えびは、腹部に縞模様があり、別のえび。北海道南部から四国・土佐湾までの太平洋沿岸に分布し、おおむね水深300〜500mの泥底に生息。2〜5月に産卵し、雄から雌に性転換しながら生育する。甘えびとして流通していることもある。
●伊勢えび(伊勢海老) イセエビ科。ほんのり甘い上品な味、大型で姿形のよいところが珍重されている最高級品のえび。伊勢神宮の神嘗祭(かんなめさい)ではたくさん供えられる。一般には長い触角と曲がっている腰が長寿のシンボルとされ、正月の飾りつけや結婚式などの祝い膳に殻ごと使われることが多い。この名は伊勢湾で多くとれたことからついたもの。殻全体が濃い赤褐色で、加熱するとさらにあざやかな朱赤色に変わる。体長はほとんど20cm以上で、なかには40cmに達するものもある。産卵時期は6〜8月ごろで、雌の腹部に抱かれた卵から幼生が孵化(ふか)する。雄雌の別がわかるのは体長が15cmほどに育ってからで、20cmに成長するのに4年かかり、寿命は10年といわれる。茨城県以南の太平洋岸に生息し、有名な産地としては、千葉県、和歌山県、静岡県、三重県など。関東、九州方面などで漁獲したものが生きたまま流通しているが、国内産が品不足のため、南半球、特にオーストラリア産が出回っている。国内産と比べると淡い朱色で大味だが、価格は安い。
●あかざえび(藜蝦) アカザエビ科。伊勢えびを少し小さくしたような格好をした、体長20〜25cmほどの大型のえび。体色は伊勢えびよりやや淡く、全体に橙赤色をしている。その色が植物のアカザの若い葉にある紅斑に似ていることからこの名がついた。前3対の脚にはさみを持ち、第1脚目のはさみが著しく長い。そのため手長えびと呼ぶ地方も多く、しゃこえびともいう。房総半島から日向灘方面、台湾まで分布して、水深200〜400mの泥底に穴を掘って生息する。主産地の駿河湾では冬~春に漁獲する。身は伊勢えびよりやわらかく、甘みがある。刺身もよいが、ゆでて和え物や酢の物にしたり、グリル、ワイン蒸し、クリーム煮……と、加熱するほうがおいしくなる。
●ざりがに ザリガニ科。淡水産のえびで、前3対の脚にはさみを持ち、第1脚目のはさみが特に大きい。在来種は体長5cm以下の小型種で、昔は全国に分布していたが、昭和初期に食用ガエルの餌としてアメリカから移植したアメリカざりがにの繁殖にともなって駆逐され、現在は北海道や東北地方北部の河川の上流から中流域の小石のある川底に生息しているのみ。在来種の近縁種は、東南アジアに3種ある。一般に流通しているのは、上記のアメリカざりがにで、アメリカ南東部原産。アメリカザリガニ科に属し、体長は12cm。このえびは単にざりがにの名で流通することが多く、えびがにとも呼ばれる。今や北海道を除く全国に分布し、池沼、川、水田、側溝などで生息し、主にペット用として飼育されている。食用として養殖された輸入ものは夏場だけ供給される。料理するときは、ジストマなどの寄生虫がいることがあるので、ゆでる、焼くなど、加熱することが大事。フランス料理に使われるエクリヴィス(Ecrevisse)もざりがにの仲間。
●ロブスター アカザエビ科。外来種のえびで、威風堂々たる姿が特徴。太平洋側の浅海の海藻の多い海の岩礁の岩棚などに単独で穴を掘ってすむことが多いが、深海にも生息すると推定される。体色は暗赤紫褐色、暗青色その他種々ある。見た目が巨大なざりがにとそっくりなので、海ざりがにという俗名を持つが、基本的な体の作りはあかざえびと同じ。第1脚目に大きさの異なる大きなはさみ、それに続く2脚に小さなはさみを持つ。第1脚目のはさみは左右で大きさが異なり、大きいほうには臼歯、小さいほうには小さな歯が多数並んでいる。体長は普通30~50cmほどだが、なかには1mに達するものもある。食材として代表的なのはアメリカ東北部産のアメリカンロブスター。日本にも多量に輸入されている。流通名はオマールえびで、オマール、海ざりがにとも呼ばれる。このごく近縁種のヨーロピアンロブスターがノルウェーから地中海までのヨーロッパ各国沿岸に分布。加熱すると、殻の色にかかわらず、いずれも真っ赤に変わり、身は引き締まり、風味がよくなる。ゆでるか焼いて殻ごと割ってレモン汁とバターでシンプルに食べることが多いが、グラタン、クリーム煮、ロースト、サラダなどにする。日本で流通しているのは輸入ものがほとんど。
◇栄養成分 身は良質のたんぱく質が豊富で、アミノ酸が多く含まれている。タウリンも多く、高血圧が原因となる血管障害を予防するほか、肝機能を高め、胆石の予防に働きかける。殻には不溶性食物繊維のキチン質が含まれ、カルシウムの補給源になることはもとより、便秘予防、血中コレステロールの低下や抗がん作用、自然治癒力や免疫力を活性化する作用がある。漢方では、強壮薬、頻尿治療薬などに使われる。
◇選び方 いずれも透明感があり、頭のつけ根がしっかりついているものが新鮮。特に車えびは、色があざやかで身が殻にしっかりついているものにする。冷凍ものは、なるべく急速凍結されたもので、解凍していないものがよい。
◇扱い方 生のえびは非常に傷みやすいので、速やかに調理することが望ましいが、すぐ調理しないなら、頭を取り除くと、胴は比較的持ちがよい。保存は冷暗所で。てんぷらにするときは、背ワタを取り除いて尾を切り、水分をしごきだすと油がはねにくくなる。冷凍ものは水につけて解凍すると、においが取れる。u3000